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当院における着床前診断の報道に関し

2012.07.23

当院における着床前診断の報道に関し

○本日、2012年7月23日付読売新聞にて報道された着床前診断の件は、染色体の数的異常が原因の流産を防ぐ為のPGS(Preimplantation Genetic screening:着床前遺伝子スクリーニング)に関してです。


(2006年〜2012年5月現在)
PGS 77周期20人が実施
その結果、ET(受精卵を子宮に戻す)を22周期12人が行い
うち8人が妊娠7人が出産に至り、1人が現在妊娠中です。
妊娠率は54.5%(12/22周期)
PGSを行った方は32-45歳で、平均年齢は40.9±3.27歳、
ETを行った方平均年齢は38.3±2.81歳です。

当院では着床前診断(PGD/ PGS)を不妊症や習慣流産などで悩んでおられる方がお子さんを「産むための技術」「新しいいのちを育むための技術」と捉え、学会が一方的に会告(内規)で規制するのではなく、当事者が必要性に応じて受けられるべき医療技術と考えています。

根津院長のコメントなど、詳しくは以下をご覧下さい

当院では着床前診断を不妊症や習慣流産などで悩んでおられる方がお子さんを「産むための技術」「新しいいのちを育むための技術」と捉え、学会が一方的に会告(内規)で規制するのではなく、当事者が必要性に応じて受けられるべき医療技術と考えています。

○着床前診断(受精卵診断)とは
着床前診断は受精卵が子宮に着床して妊娠が成立する前に、受精卵の染色体や遺伝子に異常がないかどうかを調べる医療技術です。
着床前診断は、体外受精を行うことを前提としています(体外受精をしないとできません)


着床前診断では、もともと染色体異常で着床できなかったり、流産になったりしてしまう運命の受精卵を避けて、胎児として育っていける可能性の高い受精卵を選び、子宮に戻すことができます。これによって、女性が幾度も流産し、その度に子宮を掻爬し、肉体的精神的に深く傷つくことを防ぐことができます。

検査方法としては、体外受精の段階で、精子と卵子が受精し、出来た受精卵が分割する過程で、一つの割球を取り出し、検査し、子宮に戻した際に妊娠出産できる可能性の高い受精卵を子宮にもどし妊娠に至らす方法です。これにより、染色体異常による流産、死産、不妊などを未然に防ぐことができます。
また、この技術により、特定の重篤な遺伝性疾患を防ぐことも可能となりました。

出生前診断(後述)と違い、受精卵の状態で着床前に行うため、母体や胎児負担はありません。(もともと体外受精を行っていた女性に関し。自然妊娠で流産を繰り返していた女性が行う際は、体外受精を行うというハードルがあります)

出生前診断は、「胎児」の染色体を検査しますが、着床前診断では、「受精卵」の段階で染色体を検査します。

この方法により、世界において1990年以降すでに約30,000人のお子さんが誕生しているともいわれ、またこの技術を用いたことによって起こったとされる異常は報告されていません。


○出生前診断とは
出生前診断とは、主に羊水染色体検査(註1)、絨毛検査(註2)、母体血清マーカー検査(註3)、超音波診断などのことを意味します。
これらは受精卵の状態で行われる着床前診断とは違い、すでに妊娠(着床)が確定し、胎児が子宮の中にいる状態で行われる検査です。体外受精を受けた人だけでなく、自然妊娠の方も多く受けており、国内で広く、特に規制無く行われています。
また、その結果によっては人工妊娠中絶を選択する方もおられのが現状です。

○日本での着床前診断の実施の状況
日本では、神戸の大谷産レディスクリニックの大谷徹郎院長が習慣流産の患者さんに対し着床前診断をおこなったことを公表、日本産科婦人科学会より、会告(内規)違反とのことで2004年4月に除名処分となりました(現在は復帰)。しかし、このことにより、論議が高まり、2010年には日本産科婦人科学会の会告においても、均衡型染色体構造異常が原因の習慣流産に対して、申請を行えば適応、と変更されました。
しかし、学会の会告に関しては、まだまだ患者さんの現状に即しておらず、非常に不十分なものと言わざるを得ません(詳細は後述)。

当院では着床前診断をFISH法(染色体(遺伝子の入れ物)を特殊な染料で染色して染色体の数や異常の有無を調べる検査)にてPGDを2005年よりPGSを2006年より行ってお問題提起の為公表しています。

○PGD PGSとは?
着床前診断には2種類あります。
・PGD(Preimplantation Genetic Diagnosis:着床前遺伝子診断)
・PGS(Preimplantation Genetic Screening:着床前遺伝子スクリーニング)

近年では、PGDとPGSとを分けて細かく説明されるようになっています。

・PGDは、遺伝性疾患の罹患者、保因者/均衡型染色体構造異常保因者が対象
・PGSは、染色体の数的異常による流産を繰り返す等の人を対象

世界での状況は、PGSの適応件数がPGDを上回っています。

○染色体の構造異常 数的異常とは?
構造異常...相互転座、ロバートソン転座などPGDで検査できる。日本産科婦人科学会の会告では、流産経験があるなど条件をクリアした場合、申請すれば認められる。

数的異常...数的異常によって着床に至らない、流産、死産を起こす。児が誕生できたしても染色体異常を伴う(ダウン症等)。加齢によって数的異常を起こす確立は増加する。PGSを行うことで妊娠できる可能性が高くなる。日本産科婦人科学会の会告では、幾度流産を繰り返してもPGSは認められていない。

○なぜPGD,PGSを日本では行うことが難しいのですか?
日本産科婦人科学会の会告(学会内の内規)で、適応基準を厳しくしています。 また、一学術団体の会告が、あたかも国の法律の様に強制力を持っているというのが現状です。

○日本産科婦人科学会の会告/適応基準は?
原則として重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある、遺伝子変異ならびに染色体異常を保因する場合に限り適用される。但し、重篤な遺伝性疾患に加え、均衡型染色体構造異常に起因すると考えられる習慣流産(反復流産を含む)も対象とする(平成22年6月26日改訂、日本産科婦人科学会HPより抜粋)。

適応の可否は日本産科婦人科学会において申請された事例ごとに審査される。

→申請をし、半年は治療を待つことになる。高齢の患者さんにとってはその時間のロスがますます妊娠率をさげることへと繋がる。また、申請が会告の基準に合わないと許可されない。
→均衡型染色体構造異常に起因すると考えられる習慣流産しか適応がないため、染色体の数的異常などによって繰り返される流産に関しては、たとえ申請しても通らない。(PGSを認めていない)

○現在起ってきた問題
7月16日の読売新聞で報道されたように、単なる男女産み分けのために、タイに渡って着床前診断を行うケースが増加しているようです。
性染色体の上にのっている疾患を避ける為に性別を選択するのではなく、単純な性別の選択が、海外にわたれば安易に行えるようになっています。つまり、国内での法律はないまま、海外にわたってしまえば何でもあり、なのが日本の現状です。(当院では単なる性別選択は行っておりません)

この技術が、まずどのような人たちに必要であるのかを当事者の目線で切実に考え、いのちを一人一人がどうとらえるかを考え、当事者無視の学会会告ではなく、国としての当事者のためのルール整備をしていく必要があると考えます。

○PGD,PGSは、いのちの選別か?
すでに妊娠状態であり、いのちある胎児に関し、羊水検査を行い、結果によっては胎児のいのちを絶つという人工妊娠中絶を行うことが長年行われている方が、私はいのちの選択をおこなっていると言わざるを得ないと思います。
羊水検査に関しては、許可はいらない。PGDに関しては許可制(PGSは実施不可)というのはおかしな話ではないでしょうか?
着床前診断は、妊娠が成立する前に検査するわけですから、中絶の可能性を考える必要がないので、女性の心身への負担は軽くなるといえます。
結果的に、新しいいのちを産み出すことが目的なため、可能性の高い受精卵を子宮に戻すことは、いのちを産み出すため、とは言えてもいのちの選別とは言えないと考えます。
(但し、安易にこの技術が利用されるべきものでないことは確かです。)

医療行為では、患者さんの負担を減らし、よりよい医療を提供し、ベストを尽くすことが求められていると考えます。

受精卵の法的解釈等に関しては、遠藤直哉弁護士が詳しく述べています。
詳しくはこちらhttp://www.naoya-endo.com/

○今後日本において、着床前診断はどのようになっていけば良いか?

女性一人一人の立場にたって、この技術のあり方を考えていくべきであると思います。

1)学会の事前申請制をやめ、事後報告制とするべき
2)PGSを認めるべき
3)加齢による不妊患者さんをこれ以上増やさない為にも、身体の知識、 妊娠に関する知識の啓蒙の強化
4)国として、生殖医療に関する審議などを行う機関を設置する
  (政党の変化を受けず、多分野の参加による継続的な機関)
5)生殖医療に関する当事者をまもるための法整備をおこなう

1)に関しては、実施は当事者と現場の医師の判断に委ね、事後報告とすべき。高齢不妊が増えている今、許可を待つ時間が患者さんにとってはより妊娠の可能性を下げることに繋がる。データの集積自体はより良い医療を考えていく際に必要である。

2)3) に関しては、たとえ均衡型染色体構造異常でなくとも習慣流産などに関しては、本人が望めばPGSを選択できるようにすべき。
高齢不妊が急激に増えているのは、妊娠知識の啓蒙不足であった学会の責任が大きい。であれば、希望者にはPGSによる対応とともに、未来の高齢不妊をこれ以上増やさない為にも啓蒙活動に力を入れていく必要がある。

数的異常での、流産を繰り返すケースにおいて、PGSが有効であると考えます。なぜなら
・妊娠・出産の可能性がある受精卵を子宮に戻す(ET)ことができ、妊娠の可能性が高くなる。
・不必要な流産を避けることで、精神的負担も、子宮のダメージも減らすことができる。
・もし、全ての受精卵に異常が見つかった場合、自身の選択でETを行わないことを選べる。肉体的、精神的、経済的負担を減らすことができる。

4)5)は、長年他の生殖医療に関しても願っている事柄ですが、なかなか実現がなされません。 先進国は生殖医療に関しなんらかの法を制定しており、日本においてこのような放置状態を続けることは恥ずべきことです。政局に関係なく、幅広く継続的に未来を見据えた機関の設置が必要と考えます。

どんな治療法を用いて妊娠出産を行なおうと、子どもを育てる、という点に関しては同じ。子どもを責任をもって育てるのは、その子の親です。
親が正しい情報を得て、それぞれの状況を鑑み、その上で治療法を選択できるようにするのが、医療者のつとめではないかと考えます。
また、どんな検査をしても、すべての異常を避けることは不可能です。
完全な人間、というのは存在し得ません。
PGD,PGSが現状の患者さんと医療現場に即した形で、不妊や流産に苦しむ方たちのための「産むための技術」「新しいいのちを育むための技術」として行なわれていくことには賛成ですが、これらの生殖医療技術を用いた親の趣味による、デザイナー・ベイビーには大反対です。

どんな場合でもお子さんを望む際は、妊娠・出産がゴールではなく、妊娠、出産、育児のトータルを考えて、親になる意識をもって臨んでいただきたい、と思います。



註1)羊水染色体検査
羊水染色体検査は、局所麻酔をかけ、長い注射針の様なもので体外から羊水穿刺を行い、羊水を採取し染色体の異常を調べる検査。妊娠16週前後に行う。国内において年間約10,000件行われているといわれる。
 近年の妊娠の高齢化に伴い、検査を希望する妊婦さんが増加しているとされるが、しかし、羊水検査後の流産の割合は200回に1回くらい(0.5%) であり、また、羊水検査の後の子宮内感染といった重篤な合併症も 0.1~1.0% とされており、海外では羊水検査が原因で、様々な合併症を引き起こしたり、母体死亡に至った症例も報告されているため、安易に行うべきものではないと考える。

・母体年齢が何歳であっても、ある確率で自然発生的な先天異常は発生する。

・母体年齢が高くなるに従って、先天異常の発生確率は高くなる


註2)絨毛検査とは
妊娠9週前後に行われる。
流産率が羊水検査よりも高い。

註3)母体血清マーカー検査
母体血液中の胎児または胎児付属物に由来する妊娠関連タンパク質の測定による,血液生化学的検査。単独での検査結果の精度は低く、妊婦さんの不安を不必要にあおるため、当院では行っていない。