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野田聖子議員の妊娠報道に関して

2010.08.26

本日、8月26日に野田聖子さんが米国で卵子提供を受け、妊娠されたことを発表されたことについて、当院にも問い合わせが多く入っておりますので、1996年より国内で卵子提供の体外受精に関し、問題提起をし続けている医師の立場として、根津院長よりお話させて頂きます。

多く頂きました質問に関し、Q&A形式でお答えさせて頂きます。

Q1) 野田聖子さんの妊娠のお知らせに関し
まずは、妊娠おめでとうございます、と申し上げたいと思います。様々な意見がある中、堂々と事実を公表し、ご自身のお気持ち、また今の日本の問題点に関し身をもってお話しをなさったことに、敬意を表します。無事ご出産なさる事を心からお祈り申し上げます。

Q2) 野田さんは米国で第三者の卵子提供を受け、夫(事実婚上の)との受精卵をご自身の子宮内に移植したとのことですが、卵子提供による体外受精に関しての意見は?
ご自身の卵子、精子により妊娠ができず、卵子提供、精子提供を受け妊娠する事は 私は卵子、精子の段階での養子縁組と考えており、提供者、被提供者夫婦が納得の上、相互扶助の精神で行う事は、妊娠出産の選択肢の一つとしてあるべきと考えています。
何よりも一番に大切なのは、どんな妊娠出産にも言える事ですが、親になるためには、自分の子として何があっても育てていく責任感と覚悟が必要だと思います。野田さんにはそれがおありだと私は思います。

Q3) 諏訪マタニティークリニックでは、どのような体制で行っていますか
ご自身の卵子がない、もしくは卵子に問題があり妊娠ができない場合において、卵子提供を受けての(非配偶者間体外受精での)妊娠ということは当院でもガイドラインを定め、1996年より治療を行っております。
 早発閉経や卵巣の問題で、ご自身の卵子で子どもを産むことができない方は20代でも存在します。
日本では法もシステムも成り立っていないため、当院では、卵子の提供をしてくださる方がいるケースのみ相談を受け付けて、事前カウンセリングを行い、ガイドラインに適応したケースのみ施術しています。(斡旋はしていません)

Q4)諏訪マタニティークリニックでの提供者はどんな方ですか?
 提供者は当院のガイドラインにも記載されていますが、
1.国の法的整備がなされるまでは、精子の提供者は「依頼者(夫)の兄弟または実父」、卵子の提供者は「依頼者(妻)の姉妹」と限ることを原則と し、それが不可能な場合には、依頼者夫婦の責任のもと別の第三者からの配偶子の提供も可。その際、当病院では斡旋などは致しません。
2.原則として、すでに結婚して子どもがいる方に限ります。
3.金銭や、生まれてくる子どもへの権利などを要求せず、あくまでボランティア精神で臨む方(依頼者からの強要は受けていないこと)。 としています。

Q5)今までに、どのぐらいの方が治療し、何人のお子さんが産まれていますか?
1996年より卵子提供の体外受精は約150症例で、66人(現在妊娠中は含まない)のお子さんが誕生しています。
精子提供の体外受精では、約110症例で、104人(現在妊娠中は含まない)のお子さんが誕生しています。

Q6)精子提供と卵子提供に関して国の対応の違いがあるようですが、それについてどう考えますか?
精子提供は約60年前から日本では行われており、法律はないものの事実上認められた形になっています。
しかし、卵子提供に関しては産婦人科医の任意団体である日本産科婦人科学会の会告で禁止されており、一度私はこの件で学会を除名されました(現在は復帰)。また、厚労省審議会は2003年、非配偶者間体外受精を容認する報告書を出しましたが、ただし、卵子、精子提供者は「匿名の第三者」とし、兄弟姉妹からの提供は家族関係が複雑になるとして「当面認めず、匿名での提供で開始した後、再検討する」としました。しかし、匿名での提供の事に関し、具体性も運用案もなく、再検討もされておらず、現在も放置されたままです。
精子提供は精子の採取が比較的容易であるけれど、卵子の採取時に負担が大きいから、精子提供は良いけど卵子提供は駄目だ、と話す識者もいました。しかし、採取方法ではなく、本来提供卵子と提供精子は命の重さとしては同等であるべきであり、採取時の治療に関する説明とリスクをご説明した上で、ご本人の意思でなさるのであれば、採取の手間は問題の争点ではないと考えます。
また採卵方法も通常の体外受精同様、極力負担がかからない形をとっています。
精子提供と同様に、卵子提供も認めていくべきであり、現状を考え、日本における卵子提供、精子提供はどのような形で行われていくべきか、今こそ、前向きなルール整備をしていくべき時と考えます。

Q7)精子提供、卵子提供によって産まれた子どもは、誰の子どもになるのですか?
日本では、体外受精もまだなかった時代の、昭和37年の最高裁の判例によって「産んだ人が母」とされ、生殖技術の進歩にも関わらず、一律それが引用されています。
そのため、代理出産で依頼夫婦の遺伝子の実の子であるにもかかわらず、産んだ代理母が母とされてきています。
しかし、今回のような卵子提供による出産では、「産んだ人が母」とされるので、遺伝子的繋がりの有無は問われずに、法的にも産んだ人が「母」となるのです。
また、60年以上前から行われている精子提供による妊娠では、産んだ女性の夫が遺伝的繋がりはなくとも自動的に子の父となります。これは、法律で産んだ女性の婚姻関係にある夫が子の父とされるとなっているためです。
つまり、精子提供を受けても、卵子提供を受けても、当院では行っておりませんが受精卵の提供を受けても、産まれた子は夫婦の子として戸籍に入ることができます。
しかしこれに関しては例外の判断が下されたことがあります。
性転換を認められ戸籍を女性から男性にし、法的に男性となった方がその後女性と結婚し、精子提供を受けて子どもを持った際、彼は父として認められませんでした。子どもは非嫡出児とされてしまいました。
法的には、彼は、精子提供を受けた無精子症の男性となんら変わらないはずで、婚姻関係にある妻が産んだ子であるのにもかかわらず、彼の戸籍に子どもを入れる事ができませんでした。 これに関しては、おかしいのではないかという意見がいくつも出され、千葉元法務大臣が、検討し直すとのことでしたが、現在も放置されたままです。
このように、あまりに妊娠出産をめぐる状況が、民法のできた時代とでは違うため、親子の定義に関し、大きな矛盾が生じています。古い判例を引用するのではなく、現状に合った新しい法の制定を望みます。

Q8)諏訪マタニティークリニックでは、患者さんは高齢化していますか?
不妊治療全般、そして妊婦さんにも言える事ですが、非常に患者さんが高齢化しています。
40代で初診という方が非常に多くなっています。
晩婚化も理由でしょうが、それ以上に、私は国の政策で「避妊教育」のような性教育は行っても、若い世代に本当に必要な、「自身の体(妊娠など)」に関する教育を行っていない事が一番の原因と考えられます。たとえ高学歴でも夫婦共に卵子が老化するという事などを知らない方が非常に多く診察室に訪れ、そして事実を知り「誰も今まで教えてくれなかった」と大きなショックを受けられます。
ちなみに、当院では45歳を不妊治療の初診時年齢の上限とさせて頂いています。 (不妊治療に関し、当初は年齢制限を特にしませんでしたが、あまりに多くの高齢の方がいらっしゃり、たとえわずかな可能性しかなくとも、と産む事が目標になってしまい、どうやって子どもが成人するまで責任を持って育てるのか、などのプランも全く持っていない方も多く、またそのような方をもお受けすると、クリニックの診療のキャパを物理的にも超えてしまうため、上限を設けさせて頂いております。)
45歳前に治療を開始した方は引き続き治療を行なっております。

Q9)高齢不妊に悩む方にとって、「卵子提供」の選択肢は十分にありえることなのでしょうか。
高齢不妊の大きな原因の一つとして、卵子の老化があります。
ですので、卵子提供を受けてでも、自身で子どもを産みたいという方にとっては夫婦でその選択をし、自分たちの子として大切に育てていく強い責任感を持っているのであれば、選択肢の一つとしてあっても良いのではないかと思います。
「子どもを産むという事は〈育てていく〉という事で、それがとっても重要で大変なこと。出産はゴールではなく、あくまでスタートです」どんな方にもそうお話しをさせて頂いております。
また、妊娠出産の選択は女性の人生に置ける問題であり、その選択に関し他者が強制すべき問題では本来ないはずです。 
選択の自由のためにも、産まれてくる子も含めた当事者を守るための法整備と、子どもを社会全体で暖かく守り育てていくという社会体制の整備が急務と考えます。

Q10)高齢の妊娠は危険ではないのですか?
若年者にもそれなりに問題がありますが、総じて妊娠・出産・育児は若くて体力のある内にして頂きたい、というのは産婦人科医の願いであります。しかし、現状として日本における妊娠は高齢化の一途をたどっていることも事実です。
高齢妊娠(35歳以上)として区別する理由、即ち、妊娠・出産に伴う危険性の頻度は、年齢が高くなるにつれ高くなります。
ⓐ妊娠においては、卵の老化、染色体異常の増加、流産の増加、妊娠高血圧症候群(旧妊娠中毒症)に伴う様々な問題、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮癌との合併率の上昇
ⓑ出産においては軟産道強靭症(産道が硬く、経腟分娩を難しくする)、微弱陣痛、安全を期した帝王切開率の上昇、年齢に伴う腎、心、肝、脳等、全身の何らかの疾患の合併率の上昇、染色体異常児の出産頻度の上昇
ⓒ産後においては、母乳率の低下、育児能力の低下、体力の低下(精神的な面も含め)による問題
以上の理由により、妊娠・出産・育児を超高齢で行うことは医学的には奨励しかねます。しかし、現状として妊娠は高齢化しており、高齢妊娠をされた場合、安全に出産に至らす医師のサポートは必要不可欠です。
当院では、海外で卵子提供をうけて妊娠した60歳の方が、東京都内の病院で妊娠中のケアと出産希望をことごとく断られたため、当院に助けを求め、母子ともに無事に2008年に出産に至らしたケースもありました。
 実母による代理出産では40代後半から60代前後の方が今までに9名出産をされています。
当院では妊娠中のケアを含め、より注意した万全の体制で対応しており、通常の妊婦にも見られる妊娠中毒症などは起こることはありましたが、今までに大きなトラブルは起こってはおりません。(しかし、妊娠は通常でもリスクを伴うものですから、安易な考えではどんな妊娠も危険と言えます)

Q11)厚労省の対応についてどう思いますか?
週刊新潮の野田聖子さんの記事の中にあった、厚生労働省のコメントを拝読しました。
人によって賛否両論ある難しい問題なのは当たり前の事です。
しかし、重要な命に関わる問題を国として、長年難しいと放置し続ける事はいかがなものでしょうか?難しいのは、現状をかえりみず、否定論から法整備を考えるからでしょう。
 子どもを持ちたいという気持ちをサポートし、悪用されないためのルールを決めていくべきではないでしょうか。
当事者は、海外に渡ってでもと思うのが現状であるのだから、国としていかに前向きなルールをつくり、他国に委ねず国内でどのように医療行為を行っていくか、きちんと検討すべきです。
選択の道を、事実上国内で閉ざしている現実を、今一度考えて頂きたい。

この国には、生殖補助医療に関する法も、養子縁組の斡旋に関する法も、また12週未満の死亡や人工妊娠中絶された胎児の処分に関する法もありません。胎児の処分に関しては各自治体任せで、感染症廃棄物として扱われている状態が多いとの事です。それが発覚したのも平成16年に横浜で一般廃棄物に出していた医師がいた事件が発端で厚生省と環境省が調査した結果初めてわかった事だそうです。
 その後、一度は命が宿っていたのだから廃棄物(ゴミ)扱いではなく、条例を定めて取り扱うように注意喚起を行ったとの事ですが、現状としてあまり実態は変わっていないようです。
 その後もこの件に関し、国の一律化されたルールはありません。
命に関することが、こうもおざなりにされている日本は、本当に先進国といえるのでしょうか。


Q12)卵子提供によって産まれた子どもの福祉に関してどう思いますか?
いずれかの段階で産まれてきた経緯の事を知るかもしれないですがそれだけ、自分が産まれてくる事を両親に強く望まれた事は、決して恥ずかしいことや忌むべきことではない、と思います。 卵子提供であっても、精子提供であっても、代理出産であっても、養子であっても、親が我が子として大切に育てていくことに関し、他人が「そういう子は不幸だ、不幸になる」とどうして勝手に決めつけて言う必要があるのでしょうか。
また、そういう差別意識、排除意識が親や子供たちの気持ちを不安定にしてしまうのだと思います。
両親が揃っていても不幸な子はいますし、自然妊娠で産まれても虐待を受け死亡する子も沢山います。卵子提供や代理出産は家族関係が複雑になると言いますが、離婚や再婚を繰り返す等に比べればまったくもってシンプルです。
約30年前には、「試験管ベイビー」と呼ばれた体外受精児は当時非常に異質な存在として語られましたが、いまや日本における新生児の5、60人に1人の割合で産まれているとのことです。時代は変わってきているのに、もはや昔の「普通」とう感覚が成り立たない状況なのに、何か現実を見ていない「有識者」の方たちが、「本来、こうあるべき」と勝手に無責任な議論をしている気がします。
どんな子も、温かい目で見て育てていく、そういう社会体制を私たちがつくっていくべきです。どういう形で産まれても、子供たちが幸せになるためのサポートをしていくのが社会の役目だと思います。
シングルマザーの子は不幸だ、貧乏の子は不幸だ、施設にいたから、養子だから、障害児だからなどと勝手に色眼鏡で子どもを不幸にするのではなく、そういう子が、そして親が不幸にならないためには、幸せになるためには、私たちはいったい何が出来るか考えるべきでしょう。
当院の代理出産のケースでいえば、患者さんからのお話しでは、手続きの際、役所の受付の方が優しく一生懸命調べてくださったり、家庭裁判所の方もとても好意的に接してくださったとの事です。事実を伝えて接した方々が、産まれてきた子にとってなるべく良い状態に早くなるために、親である彼らに暖かい対応をしてくださった事は、本当にありがたい事だと思います。
また、生まれたお子さんとご両親、産んでくださったお母さんは、たまに様子をみせに遠方から来てくれます。その際、他の患者さんとお話していても、両者でとても普通に、そしてにこやかに接しています。お子さんが大きくなっても、また当院以外の場所でもそのような社会環境がある事を、そして彼らの幸せを心から願っています。

今回の野田聖子さんの妊娠報道を機に、日本の生殖医療をめぐる様々ないのちの問題を、ご自身の身近な問題として、今一度みなさんに考えて頂けましたら幸いです。

2010年8月26日

産科婦人科小児科病院
医療法人 登誠会 諏訪マタニティークリニック 院長 根津八紘

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