12月13,14日の「着床前診断」の報道に対し
12月13日に日本産科婦人科学会が「着床前診断」の実施成績を会見で発表した件で新聞報道等がなされたことに対し、当院では改めて皆さんに事実をお伝えさせていただきます。
各新聞紙面には、
「日本産科婦人科学会は13日、重い遺伝性疾患などに限って実施を認めている「着床前診断」の実施成績を初めて発表した。妊娠率は約15%と学会の期待より低く、技術的な課題を探る。それによると、05年4月〜08年3月に9施設が107件を学会に申請し、このうち73件が承認された。実施に踏み切ったのは6施設の64件で、5施設の10件が妊娠に至った。現在までに生まれた赤ちゃんは2施設の3人だった。・・・学会は「4人に1人程度の妊娠率を期待していた。やや低い」としている。」(毎日新聞)
「出産率の低さについて、同学会倫理委員長の星合昊(ひろし)・近畿大教授は「受精卵を分割する時に傷つけてしまうなど、原因は技術的なものかもしれない」と語った。」(読売新聞)
この報道からの「着床前診断」における妊娠率は約15%、生児獲得率は約4.7%では確かに妊娠率も有用性は低く感じられます。
しかし、この数値が収集された学会の認可施設に限ったものであり、データの採取の偏りを当院は指摘します。
諏訪マタニティークリニックにおいては、2005年2月から2008年11月末までに、32人の患者さんに着床前診断を行ない、その結果異常卵のみで子宮に戻せなかった7人を除く25人において、totalで39個の受精卵を戻すことが出来ました。
今のところ22人が妊娠、12人が出産、現在3人が妊娠継続中ですが、いずれも妊娠後半に入っています。
着床前診断を行なった32人における妊娠率は68.8%(22/32)、生児獲得率37.5%(12/32)、妊娠継続中の3人を加えると46.9%(15/32)、受精卵を戻すことの出来た25人に関する妊娠率は88%(22/25)、生児獲得率48%(12/25)、妊娠継続中の3人を加えると60%(15/25)でした。
妊娠したものの7人が流産(含化学的妊娠4人)、生児を獲得し得なかったケースが多いのは、既に頻回の流産を繰り返しているため、例え着床し得ても、妊娠を維持し得る子宮内環境下でなかったことも考えられました。また、受精卵が全部異常で子宮に戻せなかった7人は、再度チャレンジしています。これ等の7人がもし着床前診断をせずに自然妊娠していたとすれば、再度無益な流産を繰り返していた、または死産、または新生児死等に至っていた可能性が充分考えられるわけです。
また認可施設以外のデータとして、
神戸の大谷産婦人科医院・大谷徹朗先生(日本における着床前診断の第一人者)は、63人の患者さんに1.46回の着床前診断を行ない、妊娠率65%、生児獲得率52.4%(2008年8月26日受精着床学会にて発表)
この成功率の大きな違いは、学会の認可施設と大谷産婦人科医院や当院の"技術力"の明らかな差を示しています。今回の報道を機に認可施設と認可外の施設の技術力の格差を問題にしなくてはなりません。
また、認可施設の3例の出産例という数値も、セントマザー産婦人科医院の4例、立川病院および慶応大学では3例の出産例が同学会で報告されており、計7例がすでに公表されています。
このように認可施設に限っても今回の発表の数値には、根本的なデータの取り扱いへの信頼性が希薄です。
日本産科婦人科学会の信頼性が低いデータの報道で「着床前診断」の技術に間違った認識が生じたり、当事者の患者さんを不安をあおることがないよう今後報道の方々には憂慮をお願いいたします。
いずれにしても、着床前診断を選択されるのは患者さんの自由であります。当事者である患者さんの為に、この医療技術を提供出来るよう、幅広い正確な情報の収集と開示、技術力向上の方針を日本産科婦人科学会に希望します。
今後も当院では、より技術向上に努めつつ「着床前診断」の取り組みを真摯に続けていきますので、患者さんのみなさまはどうぞご安心なさってください。
当院では、今後もより良い医療技術の提供と本当に患者さんの為になる生殖医療の法整備を強く訴え続けていきます。
以下、根津院長コメントです。
各社報道におきまして、「日本産科婦人科学会によると、着床前診断に関し、申請のあった施設からのデータからすれば、着床前診断の有用性は疑問」というような内容の報道がありました。
着床前診断に関しては、2004年神戸の大谷徹朗医師による日本初の成功例、そして会告違反として大谷先生が日本産科婦人科学会除名されたことによりクローズアップされました。その後、習慣流産等の有用性に関しては大谷医師を通じ、大谷医師のデータ並びに諸外国のデータを通じ様々な形で報告されてきています。現在の日本において、大谷医師がこの医療技術のまさに第一人者である事実は否めないものであります。
今回改めて大谷産婦人科医院、そして当院の最新データを発表させていただきますが、日本産科婦人科学会による報告とはあまりにもデータの差があり、これはむしろ日本産科婦人科学会に申請している施設の技術力の低さを示したような結果ではないかと思います。
稚拙な技術のデータのみをもって、着床前診断の有用性を語るということは、いかがなものでしょうか。また、新聞報道に関してですが、大谷医師は記者会見においても本年8月の受精着床学会でもデータを開示していますし、一方向からのデータのみでこの問題を報道することは公正な報道であるとはいえないと思います。
新しい医療では、医師にはきちんとデータを開示し患者さんに伝えていく義務が、報道には公正に広く一般に伝えていく責任があると思います。
今後、公正な情報の提供を切に願います。
また、非配偶者間体外受精におきましても、生殖医療全般に関し、国の前向きな法整備を強く望みます。
2008年12月18日
諏訪マタニティークリニック
院長 根津八紘

