HOME / トピックス / 日本学術会議報告書に対する抗議 遠藤直哉弁護士
   d  d  d

Topics

日本学術会議報告書に対する抗議 遠藤直哉弁護士

2008.04.16


平成20年4月16日



内閣総理大臣   福田 康夫 殿

内閣特別顧問   黒川  清 殿

自由民主党 総裁 福田 康夫 殿

民主党   代表 小沢 一郎 殿

社会民主党 党首 福島みずほ 殿





フェアネス法律事務所   

生殖医療法専門家(法学博士)  

弁護士 遠藤直哉   





第1 学術会議の歴史的汚点





学術会議の与えられた今回の役割は明らかであった。厚生科学審議会が肯定した卵子・精子提供を再度具体的に拡大すること、向井夫婦を支援する社会の動向に与し、かつ最高裁の付託に応えて、子の福祉を守るため、子の地位を夫頼夫婦の子とする法案を作ることであった。また凍結精子の議題についても議論を開始をすることであった。これらのことは、内外の情報を有する学術的専門家であれば、なしえたはずである。世論の声、不妊症の患者の声、根津医師の詳しい実績報告に耳を傾け、内外の文献を整理すれば、学者にとっては容易な道であった。関係者も期待していた。しかし、驚くべきことに、報告書を依頼した政府の方も今回のこのような結果を予想していなかったのではないかと思う程の酷さである。報告書を作成した委員達もこのような結論が法律になるとは殆ど考えていないであろう。国会議員はこの内容では既に消極的となっている。患者、医療関係者、報道機関などから期待も大きかっただけに徒労感も大きく、学術会議とは何なのかとの疑問も湧いてくる。黒川前会長も学術会議の学問的権威をここまでおとしめるとは予想していなかったであろう。辻村委員、加藤委員らの常識的意見を踏まえて、議論を進めることもなく、結論を急いだのはなぜなのか。果たしてこの結論はどのような理由で、どのような力によりなされたのか。最も正確な報道をした日経新聞ですら、その真相に触れることはできない。使い道もないような代物を税金を使って作ったのはなぜか、誰も答えられない。

その答えは次のとおりである。日本の学者は欧米の情報を日本に紹介し、日本の近代化に尽くすことに大きな役割を果たしてきた。しかし、今回は外国の文献を正確に引用せず、患者の声も聞かず、医療の現場について調査もせず、医学的、倫理的、社会学的に調査する学問の手法をとらなかった。現在に至る過去の情報をまとめるのは修士論文の初歩であるが、これすらできていない。学術会議は、理科系の研究者が多数を占め、文化系は少数である。前者は研究費や補助金の獲得に明け暮れている。営利的な事業との提携も多くなっている。学術会議を利用し、政府や官僚と近づくことを利益とする。日産婦会を典型とする利権集団が蠢いている。患者や現場の医師の苦悩には興味を示さない。今回の結論は、日産婦会の顔を立てたにすぎない。白い巨塔の中での協力が続いているということである。これに対して、今回の研究会に文化系が入り、このような利権集団を制御できる絶好の機会であったが、いかんせん医療の専門家ではないためか、または利権や名誉を求める者達に惑わされたのか、不甲斐ない結果となった。真の意味で国民の福祉の向上を目指して、適正に権力を誘導できる研究者であればよかった。黒川前会長も日本の学者達の先見性のなさや主体性のなさに内心ビックリしておられると思う。日産婦会は本年4月総会で着床前診断の偽装論文に基づく偽装表示見解(ホームページ)の継続を決定した。このような学術の名に値しない学会のリードした研究会の結果は学術会議の歴史に大きな汚点を残し、研究者全体の信用を失墜させたことは間違いない。





第2 報告書に対する批判





1 代理懐胎禁止の法律



法律をもって、禁止する必要性が証明されていない。日本産科婦人科学会の会告によって、現在まで禁止されており、実施しているのは根津医師だけである。根津医師の実施は、母親と親族をもってするものであり、患者が救済されていることが証明されている。マスコミに注目されている中で、安全性・倫理面で全く問題が起こっていない。学会や団体の支援もなく、逆風の中での実績は歴史的にも驚くべき偉業である。向井夫婦の場合には、第三者の代理母であるが、この紹介により、ボランティアへの理解も深まった。それ故、世論(アンケート結果)は代理出産につき、賛成の意向を示している。生殖医療に詳しい国会議員も世論に反するようなことには積極的ではなく、法律は必要がないとの意見が多い。



2  営利目的の処罰



売春防止法などでは、営利目的の斡旋者が処罰対象となり、売春の当事者は処罰対象とならない。しかし、米国でも代理懐胎に限らず生殖医療については、卵子提供・精子提供などの良質のコーディネーターが成長し、必要性が認められている。日本における斡旋者が良質な形で育たないのは、社会の未熟性さを示すものであり、刑罰によって解決する問題ではない。また、営利目的の場合には、依頼夫婦も被害者であり、被害者を処罰するというのは、刑法の初歩的知識に欠けている。また、施行医の通常の施術代の受領が営利目的とされる可能性が高い。有料の斡旋業者への加担自体が営利目的とされる余地がある。それ故、斡旋業者の内でも、特に被害の発生した場合に限り、処罰するなどの限定をすべきである。



3 試行(臨床試験)



代理懐胎は、臓器移植などとは異なり、通常の出産と比して、安全性の面では問題が少ない。検討課題であった高齢の母親の場合にも、根津医師の事例をみれば問題はなくなっている。それ故、技術的には、先進医療の問題ではなく、臨床試験などの対象になるものではない。医療の初歩的知識をも欠如している。すなわち、医学的問題ではなく、倫理的・法的・社会的問題である。これについては、日本産科婦人科学会の会告で代理出産を容認したり、また判例や法律で子の母を依頼母とすることとすれば容易に解決する問題である。



4 公的運営機関



代理懐胎の専門家を構成員とするならばよいが、根津医師などの専門家を入れないような運営機関では全く円滑に進まないといえる。根津医師の実施した代理懐胎例を充分に検討すれば、現在でも結論がでるものを先延ばしにしているだけである。試行については、弊害が多ければ中止するなどと全く自信の無さを表明している。このような無責任な者達に試行を任せることは、患者にとっての冒涜でしかなく、弊害が大きい。



5 代理懐胎者=母(参考資料



最高裁平成19年判決(向井判決)は、分娩者=母は、現行民法の解釈であり、立法による速やかな対応を強く促している。この趣旨は、明らかに向井さんを母とするという世論に、逆らえないことを意味している。また、最高裁昭和37年判決(血縁母事件)は、「養育をしなかった母でも、血が繋がっていれば母とする」という、子を奪われた母親を救済したものである。かつて、生殖医療のない時代に、子を奪われ、虚偽の出生届けをされたり、また養子として泣く泣く手放した時代の話である。これに対して、最高裁平成18年判決(育ての母判決)においては、虚偽の届出で母となった者は、育てた事実を重視し、母親であるとし、戸籍上の母又は兄弟の親子関係不存在の主張は、権利濫用とし退けられた。即ち、分娩者=母のルールを採用していないのである。この最も新しい判決については全く触れていない。そして、米国の有名なカルバート判決とブサンカ判決についても一言も触れていない。



6 養子または特別養子



養子は、法律上の両親が2組(合計4名)発生する。相続権も発生する。これに対して特別養子は、実母と実父は、親ではなくなり、相続権も消滅する。このように、大きな差異のあるものである。養子では当然戸籍に実の親の名前がでる。また特別養子でも家庭裁判所の調書と書かれるので追跡により出自を知ることができる。いずれも血縁関係を重視しているからである。これに対して、代理母との関係は、相続権も必要ないし、また血縁もないので、出自を知る必要すらない。(特別)養子の必要はない。依頼夫婦=両親のルールこそが相応しいことが分かる。



7 出自を知る権利



出自を知る権利は、まず依頼夫婦の意思が重要となる。子に伝えないならば出自を強制的に伝えることは現実的にも不可能となる。また提供者の同意も重要である。不可欠である。これなくして強制的に出自を知る権利を子に与えることにより、あたかも患者の救済の道を正すようなことをすべきでないことは結論的に明らかである。



8 卵子提供と死後凍結精子



卵子提供については、長い歴史があり、不妊患者の救済や高齢出産の救済のために必要である。本来は不妊予防に力を尽くし、若いころから不妊にならない方法をとるべきであり、卵子提供はいわば究極の治療といえるものであるから、すでに厚生科学審議会の報告書でも認めているものを、積極的に肯定しないこと自体、怠慢といえる。死後凍結精子による懐胎は、自衛隊やパイロットの場合には必要であり、第三者の関与もないので、当人達の自由意思に任せるべきである。子の福祉についても両親の責任において行うべきである。検討の道を開いておくべきであった。



9 公的研究機関



公的研究機関が円滑に推進されることは少ない。今回の学術会議も公的研究機関であるにもかかわらず大失敗していることがその証明である。何よりも、構成メンバーを選任するときに既に偏りがあり、官僚指導と疑われてもやむを得ない。民主的な討論が行われていながら、多様な意見が融合されずに、結論が天から降ってくるような今回と同様な事態を招くことが明らかである。「もう国には頼らない」「民間にできないことなど何もない」というワタミ渡邉美樹社長の言葉に耳を傾ける必要がある。税金の無駄使いはさけるべきである。



10 生まれる子の福祉の最優先



報告書には、「生まれた子の福祉を最優先とすべきである」と強調するが、結論は全く別の矛盾している。生まれた子の福祉を重視するならば、依頼夫婦の子とすべきである。





第3 引用文献の欠陥



代理出産を適正に紹介した文献、バランスよく論議をしている文献などが全く紹介されていない。これは学術的報告書としては、極めて問題である。すなわち、学術会議の権威を自ら貶めることである。



根津八紘医師の著書(代理出産の実施の紹介)

「代理出産」(小学館文庫)



小野幸二博士の著書(米国の代理出産の法律の解説)

「生殖補助医療と親子関係」(「産婦人科の世界」第54巻第9号)

「アメリカにおける代理出産の法的規制」(「産婦人科の世界」第55巻第5号)

「諸外国における生殖補助医療の制度」(「産婦人科の世界」第56巻第5号)



星野一正博士の著書(米国の母親の代理母の初めての紹介)

「生殖医療を受ける患者の人格権としての自己決定権」(「産婦人科の世界」第56巻第5号)

「子宮がない稀な不妊患者の救済目的のための代理母の人道的価値」

(「産婦人科の世界」第55巻第5号)



遠藤直哉博士の著書(生殖医療の法律課題を扱う最も先駆的業績)

「危機にある生殖医療への提言」(近代文芸社)

「生殖補助医療支援基本法の制定の必要性」(「法律時報」第80巻第1号)



矢沢珪二郎博士の著書(米国などの代理出産の解説)

「代理母出産について」(「産婦人科の世界」第55巻第5号)



柳田洋一郎博士の著書(FROMの活動から積極的意見)

「代理母についての意見」(「産婦人科の世界」第55巻第5号)



塩田実津子女史の著書(社会の動向の報告)

「代理出産をめぐる情報」(「産婦人科の世界」第55巻第5号)



R.エプスティン,R.ポズナー(経済学者としての代理出産の強い肯定意見)

Richard Epstein, Surrogacy:The Case Full Contractual Enforcement, 81 VA L. REV. 2305(1995); Richard Posner, The Ethics and Ecomomics of Enforcing Contracts of Surrogate Motherhood, 5J. CONTEMP HEALTH L. & POL., 21(1994)



ジョン.ロバートソン(米国生殖医学会の倫理委員長、著名な弁護士、学者として 米国の第1人者の肯定意見)

FREEDOM AND THE NEW REPRODUCTIVE TECHNOLOGIES(Princetono U.P., 1994)






第4 結論



当職は、弁護士として長い間被害者救済にかかわり、米国においてアスベストに関する論文で修士を取得し、取締役の責任で法学博士を取得し、現在まで桐蔭横浜大学院及び法科大学院で教えてきたものである。このような立場から採点すれば、報告書は100点満点で30点といえる。



以 上