妊娠出産の新しい展望(妊娠準備・不妊予防・早期治療)
--日本産科婦人科学会は、差別を助長するような時代の流れに反する会告を撤廃すべき時にある--
平成19年11月4日
諏訪マタニティークリニック 院長 根津八紘
本日は、一週間程前の10月28日に行われた「扶助生殖医療を推進する患者会」の「二輪草」から、学術会議と日本産科婦人科学会への決議文を発送するに当たり、私も学術会議への申し入れをさせて頂きます。学術会議におかれましては、全ての国民の健康と福祉の為に、広い視野から前向きな議論をお願い致します。
産婦人科医療、特に生殖医療に関しては、様々な倫理的、社会的面が多分に含まれているため、専門職集団としては、一応のガイドラインは必要かも知れません。本来はそのガイドライン的役割の日本産科婦人科学会の会告ですが、会員に対する強制力を持ち、結果的に日本の生殖医療はその会告によってコントロールされているのが現状です。
生殖医療の不妊部門に体外受精が登場して30年、日本にその会告が出来て21年となりますが、この間日本人の意識と生活は大きく変わって来ました。特に結婚・妊娠・出産・育児に関しては、特段の変化があったと言っても良いでしょう。21年前の会告は、この間全く再考されることなく、会員医師を縛り続ける事により、いまだ拘束力を持って存在しています。
日本人の意識と生活の変容の中で、生殖医療と最も関係することに、結婚年齢の上昇があります。このことは、女性側に大きな影響を与え、最近私が新しいカテゴリーとして提言している高齢不妊という結果を招いています。
たとえば、小生が結婚した今から35年程前は、女性の22,3歳が平均的結婚年齢であったと思います。22,3歳ではさほど問題とならない女性の疾病が25歳を過ぎる頃になると発症、そして年齢と共に増悪し、不妊との関わりが多くなって行きます。子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮癌、早発閉経等々。35歳を過ぎると、それ等は更に重症化、子宮や卵巣を失うケースも増え、当然のことながら排卵が無くなったり、たとえ妊娠しても染色体異常のための流産率も上昇するという結果を招き易くなります。
又、先天的に子宮の無い方や染色体異常による不妊など、結婚により気づく例も多いことを考えると、早い結婚が、それらの早期発見につながるとも言えます。
いずれにしても、今や結婚年齢の上昇により、不妊原因は増加、それに費やす時間と労力、そしてお金は馬鹿にならないものがあります。
今までは10組に1組の割合と言われていた不妊カップルの頻度は今や7組に1組とも言われています。それどころか、治療不可能なケースがかなり含まれて来ているといった状況なのです。そして、その治療不可能なケースのほとんどは、子宮や卵巣が無かったり、有っても機能しないケースばかり、要するに代理出産や非配偶者間体外受精に拠らなければ、妊娠不可能なケースばかりなのです。
もともとの会告は、子宮や卵巣の無い人達を排除し、差別を助長して来ましたが、今や差別されるケースは増えるばかりです。
これ等の現状に対し、私は会告にいわば反する形で眼の前の患者さんを最優先にし現在に至っていますが、それではどうしたら良いかについて述べたいと思います。
先ず日本産科婦人科学会は会告を撤廃して見直しをすることです。そして「子供が欲しいのならば、女性は早く結婚した方がリスクは軽減できる」と啓蒙に努めることです。更に、事実婚カップル、シングルマザーへの社会的支援、子供が居ても女性が安心して働ける体制を国は速やかに整備すべきではないでしょうか。それと同時に教育の中で、妊娠・出産の早期準備の必要性を教え、不妊の予防の重要性を知らしめ、不妊を知った時には自己決定により早期治療に踏み切る道のあることを啓蒙するべきでしょう。その為には
①女性はできる限り婦人科検診を受け、健康状態をチェックすること(男性も必要に応じて検診を受けることが重要である)。
②中絶や流産を繰り返すことは、不妊の大きな原因となることを啓蒙すること。
③女性が30歳過ぎた時点で結婚する予定が無ければ、卵子セルフバンクに自分の卵子をストックできる体制作りをすること。
④35歳以上の体外受精は着床前診断を併用できるようにすること。着床前診断は、流産の早期発見・早期治療に極めて重要である。異数性の着床前診断を未だに禁止し、結果的に不妊患者を増やし苦しめ続けている日産婦は、一刻も早く方向転換をすること。
⑤卵子の無い場合(精子の無い場合も当然ですが)、希望者には非配偶者間体外受精が出来るようにする。この場合、卵子提供者が居ない場合、卵子セルフバンクにて使用されずにすんだ卵子を、当事者の同意を得て使えるようにすること。
⑥子宮の無い場合には保障制度を作り、当院を含め公益的な機関が代理出産のボランティアを募る事を円滑化すること。
以上のような対応を、日本産科婦人科学会や国がしなければ、不妊治療に要する労働力の損失や経済的損失は大きく、本来ならば拠出しなくて済むはずの不妊治療助成金は増額するばかりでしょう。日産婦会が不妊の予防と早期治療への道を閉ざしてきたことに大きな問題があったにもかかわらず、社会はこのような現状に気づかず、体外受精の重い負担という一部分のみに批判的になった傾向がありました。
今問題となっている産婦人科を志す医者の減少の大きな原因の一つに、日本産科婦人科学会の会告の存在があることを忘れてはなりません。即ち、夢の無い生殖医療の将来、更には昼夜問わず異常事態への対応をしなければならない産科医療、そして不可抗力によって起こる産科のアクシデントと医療訴訟に対する学会の及び腰、そして少子化の問題等を考える時、学会は一体根源的な問題を何故解決しようとしないのか、私には理解できません。会員の自由な討議を封殺し、広い視野での前向きな医療を妨害してきた諸悪の根源は会告にあります。会告を強制するのに除名や厳重注意処分などの脅しで行うのは言語道断です。
結論として、不妊患者さんや若い女性から憲法で保障されている自己決定権と幸福追求権を奪い、差別を助長している会告を、日本産科婦人科学会は速やかに撤廃し、患者さんにとっても、若い産婦人科医にとっても、夢を与えるような医療内容に変える努力をすべき時にあるものと思います。日本学術会議においては、以上の私の意見を充分ご理解頂き、前向きなご討議をお願いいたします。

